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岡山地方裁判所 昭和49年(む)25号 決定

(請求人) 金本浩一

主文

本件請求を却下する。

理由

請求人の提出した勾留理由開示請求書、勾留理由開示請求疎明書(別紙プリントビラを含む)及び請求人の当裁判官に対する供述によれば、請求人が被告人との間に刑事訴訟法第八二条第二項掲記の身分関係を有せず、且つ被告人の弁護人、法定代理人、保佐人のいずれでもないことが明らかである。

そこで請求人が同条同項にいう利害関係人に該当するか否かにつき検討する。

勾留理由開示の制度は、勾留の理由を公開の法廷で明らかにし、間接的に不当な勾留が行なわれることを防止する制度であるところ、憲法三四条後段は理由開示請求権者に何らの限定を加えていないが、右制度の趣旨に徴し、全く関係のない第三者にまで請求権を認めるは無用であることからこれを刑事訴訟法八二条に委ねているものと解される。

かような制度の趣旨から考えると、同法八二条二項における「利害関係人」とは、被告人の勾留について直接かつ具体的な利害関係をもつ者、即ち、被告人の勾留によつて事実上又は法律上何らかの直接の影響を受ける者と解するのが相当であり、更に右直接かつ具体的な利害関係は、過去の利害関係ではなく、現在の利害関係を指すものと解するのが相当である。

ところで前掲資料によれば、請求人は昭和四四年から同四六年にかけて、岡山大学の講師であつた被告人の主催する自主講座の構成員となつて英文学の指導を受け、また、被告人の住居に約二ヵ月間同居したことがあり、その限りにおいては被告人との間に一種の師弟関係が認められるが、他方被告人の正規の講義を受けたこともなく、同四六年以降現在まで前記自主講座は開かれたこともなく、又被告人の不退去被告事件には全く関係がなかつたことが認められる。

そうだとすれば、現時点においては、被告人が勾留されることにより、その主催する講座における研究が阻害されるとか何らかの影響をうけるとかの事情はなく、単に前記の如き師弟関係があることだけであるから、請求人は前示の現在における具体的かつ直接の利害関係を有するとまでは認めることはできない。

以上によれば結局本件請求人は前示条項の利害関係人に該当しないので、本件勾留理由開示請求は不適法といわざるを得ない。

よつて主文のとおり決定する。

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